失題 作者不明
山遠雲埋行客跡 山遠くしては 雲行客(かうかく)の跡を埋(うづ)む
松寒風破旅人夢 松寒くしては 風旅人(りよじん)の夢を破る
【通釈】旅人は山遠く去り、その跡をただ白雲が埋める。
松を吹く風は寒く、野に宿る旅人の夢を破る。
【補記】題も作者も知れない。和漢朗詠集の「雲」の部にあるが、原作は旅の詩であろう。前句後句、共に多くの和歌が本説取りしている。
【影響を受けた和歌の例】
越えわぶる山も幾重になりぬらむ分け行くあとをうづむ白雲(藤原頼実『新勅撰集』)
花にのみなほ分け入れば吉野山また跡うづむ峰のしら雲(宇都宮景綱『新千載集』)
心とはすみはてられぬ奥山にわがあとうづめ八重の白雲(藤原為基『風雅集』)
おのづから都にかよふ夢をさへ又おどろかす峰の松風(近衞基平『続拾遺集』)
三十路よりこの世の夢は破れけり松吹く風やよその夕暮(心敬『権大僧都心敬集』)
【参考】『平家物語』巻第三
山の方の覚束なさに、遥かに分き入り、嶺に攀ぢ、谷に下れども、白雲跡を埋んで、往き来の道もさだかならず。晴嵐夢を破つては、その面影も見えざりけり。