惜残春(抄) 江(がう)
残春を惜しむ(抄) 大江朝綱
落花狼藉風狂後 落花(らくくわ)狼藉(らうぜき)たり風(かぜ)狂じて後(のち)
啼鳥龍鐘雨打時 啼鳥(ていてう)竜鐘(りようしよう)たり雨の打つ時
【通釈】風が荒れ狂ったあと、花は激しく散り乱れる。
雨が叩きつけるように降る中、鶯はしょんぼりとした声で啼く。
【語釈】◇龍鐘 龍鍾に同じ。老いて疲れる。うらぶれる。「龍」は前句「狼」と対偶。
【作者】大江朝綱(886〜957)。音人(おとんど)の孫。玉淵の子。延喜十一年(911)、文章生。承平四年(934)、文章博士。天暦七年(953)、参議正四位下に至る。『後江相公集(のちのごうしょうこうしゅう)』を編む。詩歌のほか書にもすぐれた。和歌は後撰集に三首見える。
【補記】出典は御物小野道風筆屏風土代の「惜残春」(下記参照)。土御門院の作は「落花狼藉風狂後」の句題和歌。なお源氏物語・若菜上の柏木の詞「花乱りがはしく散るめりや」の典拠として『河海抄』は「落花狼藉風狂後」の句を挙げている。下に引用した具氏の歌は、直接的には源氏物語を意識したものかもしれない。
【影響を受けた和歌の例】
花さそふ木の下風の吹くままになほ時しらぬ雪ぞみだるる(土御門院『土御門院御集』)
咲きつづく梢を分きて吹く風にみだれがはしく花は散るめり(源具氏『建長八年百首歌合』)
【原詩全文】惜残春 大江朝綱
艷陽盡處幾相思 招客迎僧欲展眉 春入林歸猶晦迹 老尋人至〓成期 落花狼藉風狂後 啼鳥龍鐘雨打時 樹欲枝空鶯也老 此情須附一篇詩