春暁(しゆんげう) 孟浩然
春眠不覺曉 春眠暁(あかつき)を覚えず
處處聞啼鳥 処々啼鳥(ていてう)を聞く
夜來風雨聲 夜来(やらい)風雨(ふうう)の声
花落知多少 花落つること知んぬ多少ぞ
【通釈】春の眠りは、夜が明けるのも気づかない。
目覚めるとあちこちで鳥の鳴く声がしている。
昨夜は風雨の音がしていたが
花はどれほど散ったことだろう。
【語釈】◇知多少 「多少」は「どのくらい」を意味する疑問詞で、「知」と共に「いったいどれほどか」といった意味になる。「知」を「知んぬ」と訓むのは古来の訓み慣わしに従ったもの。
【補記】唐詩の五言絶句の中でも殊に名高い作であるが、和歌への影響は意外に少ない。
【作者】孟浩然(もうこうぜん)(689〜740)。浩然は「こうねん」ともよむ。盛唐の詩人。湖北襄陽の人。官職を得られぬまま放浪し、王維・李白らと交流する。王維と共に王孟と並称される。『孟浩然集』四巻を残す。
【影響を受けた和歌の例】
夢のうちもうつろふ花に風吹きてしづ心なき春のうたた寝(式子内親王『続古今集』)
暁をしらずといへる春ながらことしは夢もやすくむすばず(明治天皇『御集』)