閑臥 白居易
盡日前軒臥 尽日(じんじつ)軒を前に臥(ふ)し
神閑境亦空 神(こころ)閑(しづ)かに境(きやう)も亦(ま)た空(くう)なり
有山當枕上 山の枕上(ちんじやう)に当つる有り
無事到心中 事の心中(しんちゆう)に到る無し
簾卷侵床日 簾(すだれ)巻かれ 床(とこ)を侵(おか)す日
屏遮入座風 屏(へい)遮(さへぎ)る 座に入(い)る風
望春春未到 春を望むも春未(いま)だ到らず
應在海門東 応(まさ)に海門(かいもん)の東にあるべし
【通釈】一日中、軒に向かって寝床に臥し、
心しずかに、空の境地にある。
枕もとにちょうど山が望まれる。
心中、雑事に煩わされることは無い。
捲き上げた簾から、寝床に日が射し込み、
部屋に吹き入る風は、屏風が遮ってくれる。
待ち望む春はまだ到らない。
今ごろ海峡の東に来ているだろう。
【語釈】◇海門 陸地に挟まれた海の通路。瀬戸。海峡。
【補記】長慶三年(823)、五十二歳、抗州での作。「望春春未到 応在海門東」を句題に慈円・定家が歌を詠んでいる。
【影響を受けた和歌の例】
みちのくや春まつ島のうは霞しばしなこその関路にぞ見る(慈円『拾玉集』)
清見潟あけなむとする年なみの関戸の外に春や待つらん(藤原定家『拾遺愚草員外』)</