上空から見る木曽三川(桑名市フォトギャラリーより)
名古屋より関西本線によりて伊勢方面に入るべし。
信濃より出づ。弥富駅の近傍を流れて海に入る。
海なせる大木曽川の春の水流れて入りぬ伊勢の霞に
菜の花に春風かをる国すぎて夕日にわたる大木曽の川
紺碧の大木曽の流ゆるやかに夕日をうけて八十帆やそほのぼるも
赤濁る水ゆたゆたと大木曽の中洲の根笹ゆるぶりゆくも
磧かははらの曝され石に陽ひのかがよひて舟より見るにまぶしかりけり
雨しとしと水に音して川舟のともし火さむし木曽川づつみ
春の日の大木曽川にうちむかひせばき心のさびしまれける
揖斐川の川口にあり。
境洲の蘆は刈られて揖斐長良広き流に千鳥啼散る
川口の春の夜こそは親しけれ竿の灯匂ふとまり船など
白壁に越前こがれ反射して倉庫くらうつくしき河岸かしの夕暮
石取の山車ことごとく灯を入れて川口の町をねりゆく夕べ
揖斐長良町屋の川の水ゆたかに静にそゝぐ伊勢の内海
船津屋のおばしまゆ見る秋の水大江の水を雁鳴渡る
桑名より西北三里、麓に国幣大社多度神社あり。
薄霞む亀の尾の山冠山神さびたてり宮居まもりて
多度の山千代へし杉の二本に今も神代のおもかげおぼゆ
北伊勢第一の都会。
汽車の窓に長餅を売り時雨売る声もなつかし伊勢路に入れば
すゑものの末の栄は限あらじ国の内外に其名しられて
浪の音はしたに騒ぎて明くる夜の霧しづかなる木曽の山川
桑名より船にのりて佐屋川をのぼるほど多度山のいたくかすみて見えければ
朝風の寒きたど山しかすがに霞きらへり春ふかみかも
妹に恋ひ吾あがの松原見渡せば潮干の潟に鶴たづ鳴き渡る
(水垣注:「吾の松原」は万葉集の左注によれば伊勢国三重郡にあった松原。今の四日市市辺りかという。)
東にくだりける時、伊勢の四日市場といふところの浜より舟にのりて、熱田にわたるとてよめる
星崎にこぎてわたれば棚ばたの舟ふな乗りすらんここちこそすれ