吉井勇の歌集二冊目です。最初の『祇園歌集』が思ったよりは好調なので、勇の歌集の出版を続けていこうかと思っております。近代歌人ではいちばん好きな人です。
京都の町と女を主題とした『祇園歌集』に対し、東京の街と女を主題としているのが『東京紅燈集』です。町と女が融け合っていたような前者に対し、後者は女の方が主役として前面に出ています。
「女」というのはもとより紅燈の女、花街の女ですが、当時(明治末〜大正初頃)、まだ芸能界が発達していなかったので、青少年の憧れの存在は花柳界の美女たちでした。彼女たちのポートレートが「美人絵葉書」として売られ、今のアイドルみたいな人気を集めていた人もいるようです。
この人は下谷の芸妓栄さかえという人で、やはり絵葉書で人気を博していたようです。なるほどと頷かれるような美人です。勇は、
うつくしさ何なににたとへむ榮さかえをば玉たまと云いはむはあまり冷つめたしという歌で彼女を讃美しています。
新橋の芸妓「栄龍」などは有名ですから御存知の方もおられるでしょうが、やはり勇は逢いに行って歌を残しています。
二十代後半の独身青年だった勇は、夜毎東京の遊里に出かけては、彼女たちとの出逢いを求めていたのです。
勇は当時すでに著名人で、しかも没落貴族とはいえ伯爵家の御曹子という身分にあったわけですが、勇の女性たちに対する態度はかなり純情なものでした。実際恋愛関係に至ることもあったようですが、全般的には谷崎的な女性崇拝さえ感じられます。ドン・ファン的な猟色家からは遠い人でした。
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