東海道本線に立ち帰りて西すれば程なく茅が崎に到る。
北一里に大岡越前守の墓あり。
花と散り玉とくだくる白波に光を添へて月は出にけり
姥島はうす暗き海に黙しをり淋しきうたを波はさゝめく
踏切をこえてゆく頃落日の前にたゝずむ山のむらさき
問ひてまし語りてましをあまた世をへだててけりな道の友垣
鳴くは雲雀樹は皆松の平塚の浜街道を大磯へゆく
大名の行列のさまふと思ふ東海道の松並木道
かさなりあふ岡辺の庭の白梅はかつ〓〓咲きて夕日にてれり
磯山の松の葉越の月もよし遠く聞ゆる浪の音もよし
一しきり降て晴にし夕立に花水川はうはにごりせり
大磯にあり。
心なき身にも哀は知られけり鴫立つ沢の秋の夕ぐれ
あはれさは秋ならねども知られけり鴫たつ沢の昔たづねて
鴫たちし昔の秋は知らねども今はた寂し夕暮の雨
大磯、二のママ宮、国府津付近の海岸をいへり。
こよろぎの磯立ち馴らし磯菜つむ童めざしぬらすな沖にをれ浪
見るがうちに磯の浪わけこよろぎの沖に出でたる海士の釣舟
こゆるぎの磯うつ浪のしぶきより朝霧立て秋は来にけり
高麗山は青葉の袖におほはれて夏になりぬるこゆるぎの磯
国府津より小田原、箱根へ電車あり。小田原より湯河原、伊豆山熱海へ軽便鉄道あり。
後北条氏数代の旧地、二宮神社あり。小峯の梅林あり。
日々〓〓につもる心のちりあくた洗ひ流してわれを尋ねむ
秋風は海を渡りて小田原の庇みじかき町並を吹く
小峰のやなぞへにさける梅林子ら喜びてのぼりおりすも
小田原より南一里。源頼朝挙兵の古戦場。
なでしこのむれ咲く岩をあらけなく槌もてくづす石橋の山
真鶴の岬を遠く走り行く帆を張る船の三つ四つ二つ
天の恵地つちのうるほひゆたかなる伊豆に幸あり此柑子みよ
大春は未だ来らずしかすがに枯草山のいただき霞めり
小田原の南方、相模と伊豆との国境をなせる渓谷。
足柄の土肥の河内に出いづる湯の世にも確たよらに妹ころがいはなくに
神の代に神のほりけむ古へゆ今もかはらぬ伊豆の走り湯
遠山の峯紫にくれそめてともし火匂ふ湯の山の里
湯の宿のおばしま淡き薄月夜そともの沢に河鹿声する
伊豆の国いでゆの村の日うら〓〓こがねたわゝにみのる橘
藤木川清き流のむかう前きぬ洗ふとて今朝も賑はふ