富士の嶺ねに降りおける雪は六月みなづきの望もちに消けぬれば其夜ふりけり
道すがらふじの烟けぶりもわかざりきはるるまもなき空のけしきに
立ちならぶ山こそなけれ秋津州しまわが日の本の富士の高嶺に
富士の嶺に登りて見れば天地あめつちはまだ幾ほどもわかれざりけり
富士の嶺は山の王きみにて高御座たかみくらそらにかけたる雪のきぬがさ
二つなき富士の高嶺の奇あやしかも甲斐に有とふ駿河にも有とふ
心あての雲間はなほも麓にておもはぬ方に晴るゝ富士の嶺
夕立の晴れたる跡にあらはれて虹より上にたてる富士の嶺
うつくしくあやにたへなりかしこくも神の造れる我わがおほみ山
青雲をさしつらぬきてましろなる富士が嶺たてり二月きさらぎの空に
富士の嶺を天つみ空に残しおきて此世の今日は暮果にけり
おのづから成らむまにまに任せつつなれる姿を富士の嶺に見し
何もなしただ星空を黝くろうせる大き斜面のおごそかなりや
白雲のむらがる中におのづから光る雲あり富士にしあるらし
天の下一つ御国にならむ日も山のつかさの富士の神山
群山は雲のたもとにおほはれて御空に匂ふふじの白雪
天地に物音もあらず月一つ空にかかれり富士のみねの上
見るままに清く静けくうるはしく果は悲しき峯の上の月
声高こわだかに物は語らじほど近き星の宮人ねぶりさむべし
天あめ近き宝の岩床夜をさむみ人の世恋し人の身われは
いつよりか天あめの浮橋中絶えて人と神との遠ざかりけむ
もゆる火のもえたつ上に天あまぎらひみ雪ふりけむ神代をぞ思ふ
八十やそ国を巌の下に雲の下に踏み沈め行くわが足たふとし
人の息に灯ともしびにごれる室出でて静かにぞきく星のささやき
富士の嶺は晴れゆく空にあらはれて裾野にくだる夕立の雲
時知らぬふじの裾野の花薄穂にいづる見れば秋にざりける
行けど〓〓玉蜀黍の穂の光り富士あらはにも夕焼したり
富士のねを横ぎる雲もこほるらし裾野をかけて雪ましろなり
立髪を裾野の風に吹かせつつ馬のあゆみのここちよきかも
朝さむきさぎりの上に富士晴れて草花十里露にねぶれり
駒なめてゆくや裾野の秋風に心をどればをどる糸だて
裾野近く春の日も暮れぬ灯ひともれる家のわきなる木蓮の花
箱根西麓の宿駅、三島神社あり。
あはれとやみ島の神の宮柱たゞここにしもめぐり来にけり
関こえて三島にやどる夕ぐれに思へば家をとほざかりぬる
富士曇り箱根に日照り軒近みのうぜんかづら咲きにけるかも
時知らぬ山は富士の嶺いつとてか鹿の子まだらに雪の降るらむ
風になびく富士の煙の空に消えてゆくへも知らぬ我が心かな