京都市の北郊、高野川に臨める岬端。
山端やはなればなれの村々に霞みて匂ふ紅梅の花
京都の北郊にあり、石川丈山隠棲の地。
渡らじな蝉の小川の浅くとも老の波そふ影もはづかし
比叡の山ふもとの里に門とぢて剣を筆にとりぞ換へつる
かきこもる木蔭かすかにともす火のうつりて涼し山の遣やり水
竹むらにまじる椿の花おちて門を入るよりなつかしきかな
京都の東北に聳ゆ。寺あり延暦寺といふ。京都より登るに白川越、雲母きらら越等の道あり。
阿耨多羅あのくたら三藐さんみやく三菩提さんぼだいの仏たちわがたつ杣に冥加あらせ給へ
青柳の糸の絶間に見ゆるかなまだ解けやらぬ大比叡の雪
朝づく日さしも定めぬ大比叡のきらゝの坂に時雨ふる見ゆ
夏しらぬかげもありけり大比枝や横川よがはに通ふ杉のしたみち
千とせふるひえの杉村わけくれば夏さへ寒しひえの杉村
峯ちかく鳶の越えゆく雲母きらゝ坂近江はさやに明けにけらしも
靄の上に朝日かゞやく比叡の嶺見の宜よろしもよ秋の朝けに
初秋や白川ぐちの露ふみて女もすなる比叡のぼりかな
まちの雨比叡の小雪のゆきかひにみぞれとなりし京の北かな
ひえにのぼりてかへりまうできてよめる
山たかみ見つつわが来し桜花風は心にまかすべらなり
大比叡やをひえの山も秋くれば遠目もみえず霧のまがきに
おほけなくうき世の民におほふかなわが立つ杣に墨染の袖
今もなほわが立つ杣の朝がすみ世におほふべき袖かとぞみる
大比叡やかたぶく月の木の間より海なかばある影をしぞ思ふ
咲く花も滝もましろにあらはれて暮れゆく山のおくぞ淋しき
大比叡の峯に夕ゐる白雲のさびしき秋になりにけるかな
春の雁比叡の根本中堂に逢へるも知らずみづうみも越ゆ
現在いまのうつつなるこよひは寂しづかにて杉まの砂に月照りにけり
日の暮れの雨ふかくなりし比叡寺四方よも結界けつかいに鐘を鳴らさぬ