高野口もしくは橋本より南方に登る。四里内外にして高野山金剛峰寺に到る。
高野たかの山うき世の夢もさめぬべしその暁の松のあらしに
紀の国の高野の奥の古寺に杉のしづくを聞き明しつつ
高野山こけのとぼそはしづかにて音もきこえず春雨のふる
千歳へし杉の下道たどりつゝ高野の奥にきく時鳥
杉木立月かげ漏るゝみ山路に三宝鳥の鳴くを待ちつゝ
水の音遠くふけゆくみ山路をこゝろゆくまで鳴き渡る鳥
御霊屋みたまやの火影をぐらく森深み汝なが声のみは獅子吼ししくなりけり
今ははや水鳥樹林一如なり仏法僧のこゑのみにして
更けし夜を御廟の土にひざまづき吾師博士としばし祈りし
岩を穿ち宝ほる如古文書をしらぶる室の蓮の香の清さ
山の上に初春きたる八百やほあまり八十やそのみ寺は雪に鐘打つ
高野山のぼる坂路の杉村の雨の中なる鶯の声
大杉をみあぐる目にしあを空の晴々としてうつるなりけり
いつの世か我家の祖おやの捧げけむ貧の一燈もまじりてをあらむ
高野山杉生の奥の常燈にならびて出でし春の夜の星
おとし文人に見られて時鳥うらはづかしき音をや鳴らむ
暁を高野たかのの山に待つほどや苔の下にもあり明の月
昔思ふ高野の山のふかき夜に暁とほくすめる月かげ
風の音も高野の山の明け方にうち驚けば暁の声
くにぐにの城しろにこもりし現身うつせみも高野かうやの山に墓をならぶる