伊豆の海や沖の波路の朝なぎに遠島きえてたつ霞かな
物もなく沖はれわたる朝なぎになほ霞みけり伊豆の七しま
伊豆の海や入江入江の浪のいろ濁り黄ばみて秋の風吹く
伊豆半島の東方沖にあり。山を三原山といふ、火山なり。
炭やきの翁の小屋に水こひて半はわかぬ物がたりきく
大島や三原の山の麓辺は桜椿のいま盛なり
白煙は渦巻き登るひさかたの天つ日影は光あやふし
火の島のつら〓〓椿つら〓〓に物をぞ思ふ人の子故に
南みんなみの孤島の春の磯山にわれ手をとりて脈拍をきく
きさらぎの三原の山の御神火の本土になびく朝ごちの空
花もりの神ここにすみてとことはに椿にほへる大しま島山
うみにそふふもと焼原雨になりて三原の煙ひくく舞ひくだる
船にあまる大帆はなゝめ船なゝめとぶ鳥なして黒潮よぎる
島少女何かかたらふ島つばき花ちるかげに牛をつなぎて
切割のこけの岩みち土の香のしめれる道のひなぎくの花
親しうなりし島の誰彼まさきかれと船に寄りきぬ椿手に〓〓
伊豆七島のうちの最南の島。
八丈男子をのこ妹がりゆきぬ魚さへも鰭破るとふ荒海月夜
文永二年の春、伊豆山にまうでて侍りし夜、くもりもはてぬ月いとのどかにて、浦々島々かすめるをみて
さびしさのかぎりとぞ見るわたつ海のとほ島かすむ春の夜の月
となりには初島みえて七島は潮気にくもる伊豆の海ばら
いかばかり心ゆくらむ伊豆の海や浪にうつろふ月の夜ごろは
伊豆の海や見ゆる新島三宅島大島嶺は雲居棚引く
皐月の雲のかげりにうすき藍をひきうすき藍ひき伊豆が崎が見ゆ
数知らず伊豆の島より流れくる椿の花と見ゆるいさり火
大島はそらになづめりかなたにも夕ベせまれば水くむやをんな
牛ひきてかへる少女に路とひて島の言葉を又おぼえけり